櫻井よしこ氏の戦略論の欠陥

 櫻井よしこ氏の日本を取り巻く厳しい国際情勢に対する認識を前回見た。
 そこから、日米同盟重視と、対米追従の姿勢を見せている野田政権支持の戦略論が割り出された、との一つの見方を示しておいた。
 親米保守がよく言う、国益主義、国民の生命と財産を守る、という近代合理主義的立場から言えば、こういった発想が出てくるのは自然なのだが、これに傾きすぎれば、大きな問題には目を塞いで、目先の唯物的な利益で国民を釣っている事になりかねない。
 考えてみれば、これは日本の大手マスコミの属性でもある。だからこの問題に関して櫻井氏は大手マスコミの議論と同調出来るのかもしれない。

 もっとも戦略論として、国民に広く主張を展開しているわけだから、唯物的な利益を説いたほうが、今の国民には理解しやすいという判断もあったかもしれない。
 日本の政治のお寒い現状を見ればそういった論を説かざるを得くなった事情も分からなくもないが、それに対する忸怩たる思いが感じられないことに違和感を表明しておいた。

 そもそも戦略論としての優劣は、それが相対的な議論である以上は、それによって生じるであろう利害得失を様々な角度から比較考量して判断されるべきものである。
 櫻井氏の戦略論が持つ欠陥を、再び青木直人氏の指摘を引用して確認しておきたい。


『フリーチベットを叫びつつ、中国援助には口をつぐむ奇妙さ』
2012年1月26日 青木直人 ブログ( http://aoki.trycomp.com/2012/01/post-356.html


「1月24日、中国四川省カンゼ・チベット族自治州セルタ県でチベット族住民による暴動が発生し、警官隊の発砲で住民一人が死亡、一人が負傷し、同時に中国側警官14人も負傷したと中国国営新華社通信が報じています。(英国BBC放送等は2名死亡と伝えている)
 前日23日には同自治州ダンゴ県で同じような暴動が起こっており,1名の死者、30数名の負傷者が出たといわれています。
 2008年の北京五輪の際のラサ暴動以来の抗議運動が拡大中です。
 非武装のチベット人たちの絶望的な反乱が残念なことですが、現状では中国の人民武装警察や解放軍の力に勝つことは期待できない。
 だからこそ、中国を「政治的」に包囲してゆく必要があるのですが、日本でフリーチベットを叫ぶ人々の間からも日本国政府がODAと言う形で中国政府を「支援」している現実に抗議の声があがることはありません。
 2008年、チベットの蜂起を鎮圧するために人民解放軍が利用した光ケーブルは日本のODAで建設されたものでした。また日本の財務省が影響力をもち、歴代の総裁を独占している国際援助団体「アジア開発銀行」は中国政府の要請をうけて、今回の暴動の舞台になった四川省の高速道路の建設に既に500億円を超える融資を行なっています。道路は有事に解放軍が最優先で利用し、普段は豊かな沿岸部の漢民族資本がチベット地域に流れ込み、経済支配のための道具となっているのです。
 そればかりではありません。廃止されたと思われている中国向けODAは現在も続いており、無償援助と技術支援を合わせると合計で42億5000万になり、これ以外に文部省の中国人留学生支援や経済産業省の中国環境支援等が各省の独自に作成した中国援助のメニューとして別に存在しているのです。
腹ただしいのは。まだこれでも話は終わらないことです。
 昨年12月野田総理は中国を訪問、ここで「環境支援」と100億ドル(日本円で8000億円)の中国国債購入を約束しました。中国には国債の自由な市場はありません。つまり一旦買ったが最後、日本側が任意に売ることはできないのです。
 これらはどう見ても、公的援助そのものであり、ODAのニューバージョンというべきものなのです。

 この環境支援と中国国債を合計すればほぼ1兆円。なんと膨大な金額なのでしょう。ちなみに触れておくと、日本のODAは30年間で合計3兆円になります。そう考えれば今回の金額の大きさが理解できるはずです
 中国向け援助は減ってはいない。むしろ国民の目から隠れたところで増え続けているのです。

 GDPで日本を抜いて世界第二となった中国。その中国にいまもひたすら貢ぎ続ける日本。こうしたカネの出処は言うまでもなく私たちの血税です。なに、足りなければ、消費税を10%に上げればいい。当局は多分こう考えているのでしょう。
 これが日本の政治の現実です。チベットでどれほどの住民が殺されようと、日本からの援助はそれとは全く無関係に拡大していくという異様さ。さらに面妖なことは、このことに人権好きの朝日や毎日新聞、さらには共産党も社民党も沈黙したままなのです。

 問われているのは弾圧を続ける中国政府に対する援助に目を閉じたままチベット人たちと連帯することは可能なのかどうかという問題であり、日本人の良心のあり方なのではないのでしょうか
 私は一人の日本国民として、さらに納税者として、チベット弾圧を続ける中華人民共和国への日本からの公的援助に強く抗議するものです。

 1月26日 青木直人」



(参照;「Free Tibet!尼僧、抗議の焼身自殺[桜H24/2/10] 」http://www.youtube.com/user/SakuraSoTV?gl=JP&hl=ja#p/u/1/VF0Lrrv70JQ


 つまり、、野田政権は政権延命の為に対米追従をなしつつ、一方で、中国への朝貢外交を継続しているのだ。
 これはあの敗戦以来、米国の被保護国として暮らしてきた、非自立国家としての惰性としての政治姿勢であり、清朝に隷属していた李氏朝鮮の末期状態に似てきていると言われる所以はここにある。

 もちろん米国の保護下にあるというのは、日米同盟の一側面でもあるが、米経済の衰退により、日本を保護する能力は著しく減退している今日、もう一方の側面(日米関係をより古くまで遡ったとき、むしろこちらのほうが本質的である)が大きく前面に出てきている。

 再び青木氏のブログからの転載である。


『春、3月のお知らせ』
2012年2月 5日 青木直人ブログ(http://aoki.trycomp.com/2012/02/post-357.html

「私たちはアメリカにも中国にもともに警戒心と対決意識を等しく持たなくてはやっていけない時代に入った・・・・。それなのに一昔前の冷戦思考のままに「親米反共」のけだるい流行歌を唄いつづけている人々がいまだにいて、・・・自分たちを「真正保守」と思い込んで、そのように振る舞っている一群の人々がいる」

「中国に対する軍事的警戒感はもとより極めて重要である。しかしそれと同じくらいに、あるいはそれ以上に、アメリカに対する金融的警戒が必要なのである」

(西尾幹二「『疑似保守』は消え、悲劇的結末へ」(月刊WILL 2012年2月号)


「(今や)TPPに反対を表明しようものなら、『せっかく復元しつつある日米の結束に水を差す気か』『保守の分断に加担するのか』と怒声を浴びせられる始末である。だが中国に恫喝された反動で、条件反射的に米国にすり寄るのはあまりにも策がなさすぎるのではないか。対米追従も対中追従も、大国におもねるという点では同罪である」

「なぜ、国家としての自主独立の方策を思案しようとしないのか。尖閣事件から学ぶべきは『自分の国は自分で守るしかない』という教訓ではなかったのか」

(関岡英之「国家の存亡―『平成の開国』が日本を亡ぼす」)


「日本が模索すべきは、どうやって日本の自主性と独立性を確保するのかであって、親米か親中かという、主体性を放棄したオプションは何も生まないでしょう」

「日清戦争と日露戦争は当時の李氏朝鮮の体制動揺が引き金になりました。いま再び北朝鮮の体制の行き詰まりと揺らぎを前にして、…日本の危機が始まっています。リアリズムをなくした国民はやがてリアリズムに復讐される。戦後体制に安住して『平和』の歌を歌いつづけるだけのキリギリスには厳しい冬将軍の到来が待っています」

(青木直人「敵国になり得る国米国」)



 かつて大日本帝国は、李氏朝鮮を清朝から独立させ、大韓帝国とした。
 清朝やロシアが朝鮮半島のイニシアティヴを握ろうと虎視眈々と狙っている中で、地政学的に朝鮮半島の大国支配が日本の安全保障に決定的な影響を及ぼす以上、これに日本の影響力を行使しようしたのは、国際政治の力学から当然のことであった。
 最終的に併合に至ったのは、色々な意味で遺憾なことであるが、これを植民地化という学者がいれば、それはインチキ学者というほかない。日本は日本自身の存立の為に朝鮮の近代化を願ってやまなかったのだ。

(参照記事;ブログ『TEL QUEL JAPON』「日韓併合試論」http://goodlucktimes.blog50.fc2.com/blog-entry-225.html

 日本が朝鮮人を奴隷化していると言い始めたのは、日本を犯罪国家に仕立て上げ、人種差別意識から自己がなしつつある民族浄化(もちろん日本人に対する、である)を正当化しようとしたルーズベルト大統領であった。アメリカはインディアンから土地を奪い、ハワイやフィリピンを侵略したように、日本を悪魔化した上で侵略したのである。

 中国を極秘訪問し、周恩来と会談した、ニクソン大統領の懐刀キッシンジャーの「ビンの蓋」論は有名だ。在日米軍は、日本の再軍国主義化を抑えるためのものである、と述べている。アメリカの対日政策は、これに則っているものと見てよく、在日米軍は日本そのものに睨みを利かせているのだ。
 先年亡くなられた中川昭一氏が、非核三原則を見直すべきか議論をすべきだ、と発言した際、アメリカは心底慌てたらしく、ライス国務長官は急遽来日し、「アメリカの核の傘は有効である」と日本人を安心させようと躍起になったし、ブッシュ大統領は「中国が心配する」と思わず本音を漏らしてしまった。このことで、日米同盟の本質がわかるだろう。

 そんな米国が強引に推し進めるTPPが経済的収奪を目的とするものであることは火を見るより明らかである。
 もちろん、櫻井氏はそんなことはとうに承知しているはず。だから、為にする議論というのである。

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