儒学 ―― 最強の体系的政治イデオロギー

 「儒学は、人類がこれまで築いた、おそらく最強の体系的政治イデオロギーである。それは、孔子によって大成されて以後、他の諸思想潮流との抗争に徐々に勝利し、紀元前から二千年以上の永きにわたり、ほぼ一貫して、世界屈指の大帝国の正統思想として君臨した。そして、とりわけ近代に直接先立つ時期の東アジアにおいて、圧倒的な権威を持つ倫理哲学・政治哲学となっていた。徳川日本においても、儒学は知識人による政治思想史の展開の基軸をなし、「明治維新」にも重大な役割を果たした。」

(渡辺浩『日本政治思想史』東京大学出版会)


 
 著者の渡辺浩氏は政治学者で東京大学名誉教授。丸山眞男の門下生とのこと。
 しかし、当該著書を読む限り、師のような左翼がかった偏見は見られない。

 上記引用部分に始まる第一章 「『中華』の政治思想――儒学」は、儒学思想の要約として、これほど簡潔にまとめられたものは読んだことはない。
 特に新しい発見があったというわけではないが、儒学を説明せよ、といわれて、このように簡潔にまとめることは決して容易ではない。

 幕末、ペリーが来航したとき、日本は二百五十年の歳月をかけて、すでに、この人類史上最強の体系的政治イデオロギーを日本の伝統と結び付けて、自家薬籠中のものとしていた。
 福沢諭吉が「一身にして二生を経るが如く、一人にして両身あるが如し。その前生前身に得たるものを以てこれを今生今身に得たる西洋の文明に照らして、その形影の互に反射するを見」よ、と言ったときの「前生前身」の核となる思想がこの儒学であった。

 ところが奇妙なことに日本人、特にインテリは、その成功の基を忘れ、西洋文明を学ぶという今生今身のことに夢中となってかぶれた結果、前生前身の事を忘れた。いや、それどころか、西洋文明人になったとの思いからか、これを侮蔑さえした。必然的に、基軸はぶれざるを得なかった。

 渡辺氏は「天子の統治は天下の万民のためである。天子のために万民がいるのではなく、万民のために天子がいる」との儒学思想の解説に付言して、「かつての『大日本帝国』では、臣民のために天皇がいたのだろうか、それとも、天皇のために臣民がいたのであろうか」との問いかけをしているが、昭和天皇御自身は、幼少の頃より、帝王学として儒学の御進講を受けて来られ、万民の為の天子として君臨されたのであり、一方で、臣民の方も「忠孝」の精神を重んじ、そんな天子様としての天皇の御代を、千代に八千代に細石の苔の生すまで、と歌い、天皇陛下万歳、と唱えたのである。

 問題は戦前も、戦後も、インテリである。 
 

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