保守の空洞化 (その三)

 

 保守の定義には色々あるだろうが、その字義から言えば、何かから、何かを守り、保つからこそ、そのような名がつけられているのだろう。
 保守の政治的言い分では、それは国民の生命・財産、国益である、ということになる。
 これは保守というものが、戦後育ちであり、共産主義の防波堤として誕生したという事情と密接に関係しているように思われる。
 つまり、何かから、という点では、共産主義勢力の侵害から、国民の生命・財産・国益を守る、保つ、ということに保守の由来はあるということだ。

 こういう言い方は、確かに、経済至上主義、生命至上主義全盛の戦後国民には訴える力を持ってきた。田久保氏の議論も、その前提において、つまり国民の生命・財産を守るという前提において、大変勉強にはなる。
 ところが、こういった攻める意識を欠いた保守の姿勢は受身であり、共産主義の脅威が、ソ連の崩壊により消滅した途端に、溶解したのではなかったのだろうか。
 少なくとも、冷戦構造の崩壊によって保守は、安心し、油断した。
 自力で勝ったというよりも、左翼が後ろ盾を失ったに過ぎなかったにもかかわらず、勝った気になって、しかも、兜の緒を閉め忘れた。
 左翼にそこを付け込まれたのが、現在の保守の苦境である。

 我々は一歩踏み込んで、保守とは何を守り、保つべきかについて真剣に考えなければならないだろう。
 そして、それは、突き詰めていくと、歴史に基づく国柄であり、伝統ということにならざるを得ない。


 最近の西部邁氏には、絶望感、焦燥感のようなものが見える。
 チャンネル桜で放送された、水島社長を司会とする、安部晋三元総理、クライン孝子女史、西部氏の鼎談でも、他の三者の発言を遮るような勢いでしゃべっていたが、大変な焦燥感を抱えているように感じられた。特に安部氏にその焦燥感をぶつけているように見受けられたのが印象的であった。

 保守期待の星であった安部氏は、総理大臣就任と同時に、村山談話を踏襲すると宣言することによって、保守が守るべきものである歴史を他国に売り渡した、似非保守政治家である。
 保守層の票を当てにした戦後政治家でしかない。
 忠孝の精神を捨てて、祖父岸信介の戦争犯罪を認めて、東京裁判史観まで受け入れた。
 最近では、小沢一郎氏の売国政治、対シナ朝貢外交を「国売り給うことなかれ」と批判したが、よくそんなことがぬけぬけと言えたものである。
 二月二日の「がんばれ!日本 行動委員会」の決起集会にも現れて、その滑らかな弁舌を披露していたが、熱意は感じられたが、何やら、巧みな話芸を見せつけられているようだった。少なくとも、自身が首相時代に為した、功罪の、罪に対する深刻な反省は微塵も感じられなかった。

 あの熱意は自己宣伝の熱意だったのだろう。
 これは他の自民党政治家にも感じたことであったが、彼らは押しなべて、四月十七日、日本会議主催で武道館で行われた、外国人地方参政権阻止のための国民大会にも現れなかったそうだ。政治家の自己保身の勘が働いた、と見るのは穿ち過ぎた見方であろうか。
 もしそうなら、この大会に参加することは、自己保身的な政治家にとって、それこそ、日本の未来よりももっと大事な、自身の政治生命を失いかねないような、何か強力な圧力が意識されている、ということだ。もちろん、それは事が事だけに、外部からのものであることは間違いなかろう。
 それはこの外国人地方参政権が成立することで、国益が大きく増進する国である。それは中国しかありえないが、米国もこれを容認している可能性があるし、これを歓迎する国もいくつかあろう。
 首相時代の安部氏がはまった轍も、ポスト冷戦下のこの政治構造だったのかもしれない。


 ともかく、西部氏がそういった安部氏の本質を捕らえて、彼の前で、保守政治の危機を訴えたのだとしたら、それはわかる気がするし、同じ危機意識が、田久保氏を前にしての民主主義批判に氏を向かわせたのだろう。

 西部氏の民主主義批判は、その欠陥を語って余す所がないが、田久保氏の、ならばそれに代わりうるものがあるのか、との問いかけには答え切れていない。

 国民主権という名の問題から耳をそむけたところを見ると、田久保氏は、民主主義の問題を、制度の問題としてではなく、思想・信条の問題と捉えているように思えるが、主権という言葉があるかどうかは決定的、との西部氏の発言に対して、いやあ、そんなことはありません、と切り捨てる田久保氏に対し、日本の伝統の立場から論駁して、ぴしゃりと黙らせる発言は誰からも出なかった。

 私が保守の空洞化を感じるのはそこのところなのだ。

 私がここで論(あげつら)いたいのは、田久保氏の政治思想の中途半端さではなく、先の討論の場で、日本の伝統-我々の言動の中に、潜在意識として脈々と流れているはずの血潮-を明確な言葉にして、田久保氏の迷妄を一瞬にして解き、この民主主義の欠陥に関する議論を、否、我が国の主権に関する議論を、国体論という高い次元の議論に纏め上げる言論人が、少なくとも、この場にはいなかったことなのである。

 



保守合同の政治力学
楽天ブックス
豊島典雄/丹羽文生青山社(相模原)この著者の新着メールを登録する発行年月:2009年01月登録情報ペ

楽天市場 by ウェブリブログ商品ポータルで情報を見る

国際政治と保守思想 (坂本義和集)
岩波書店
坂本 義和

ユーザレビュー:
これは驚いた 坂本義 ...

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ商品ポータルで情報を見る

「保守」の終わり
楽天ブックス
御厨貴毎日新聞社この著者の新着メールを登録する発行年月:2004年08月登録情報サイズ:単行本ページ

楽天市場 by ウェブリブログ商品ポータルで情報を見る

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 2

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
面白い

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック