保守の空洞化 (その二)

 

  西部氏や西村氏の民主主義批判に対する、19分過ぎからの田久保氏のうろたえようをご覧いただきたい。
 アメリカン・デモクラシーを否定するなら、そして、敗戦でこれに屈服したのが原因なら、これを克服するためにはもう一回アメリカと戦争しなければならないのか、との短絡的な問いかけは、彼の頭を占めているものが何かを表している。
 すなわち大東亜戦争と、その後の占領政策によって脳裏に焼き付けられた、アメリカに対する恐怖である。
 あるいは、戦後政治に対する研究から、アメリカ政治の恐ろしさと日本の政治の幼稚さというものをとことん思い知らされた、ということなのかもしれない。

 それはそれで、現状認識としては正しいのだが、25分過ぎから始まる、西部氏が言う、民主主義などというべきではなく、民衆政治と言えばよい、主権という言葉がそこに含まれるか否かは決定的である、との発言に対する、いやあ、そんなことはない、という田久保氏の聴く耳の持たなさは論外と言っていい。
 根源的思考を欠いた彼の政治学は、おそらく凡人のそれである。

 彼は別の討論で、私はエヴィデンス(証拠)のないことは申しません、と言っていたのを聞いたことがあるが、要するに、論より証拠、という訳だ。
 もちろん、根拠のないことは言うべきではないが、証拠の解説・紹介のみなら、証拠の収集能力があれば足りることであって、特別な能力を要しないだろう。
 情報や証拠に論理的解析を加えることで、隠された真意(それがあるとして)がようやく明らかになる。文明的意思というものは大概そういったものである。そして、それを明らかにするには、常に、これまでの自己の言論を乗り越える勇気が求められるのである。
 それを、これまで築き上げてきた自己の地位に安心し、証拠の陰に隠れるようでは、本質を見極めるということは出来ないはずだ。

 政治という生きた現実から、見えない未来を占うには、その証拠をどのように価値判断し、分析するか、という能力が問われるのであって、現在のような、不透明にして、大変不安な未来を抱える我々が、世の知識人に期待しているのもそこではないだろうか。
 しかし、田久保氏にその能力が欠けているのは、イラク戦争のときに、現状認識を誤り(イラクの大量破壊兵器保有というアメリカの言い分を鵜呑みにしていたことなど)、対米追従の論陣を張ったことでも明らかで、一応は、日本の自主独立を目的としているとは言いながら、現状の認識から日米同盟をより強固なものにしなければならないと主張するにしても、その矛盾に対する苦渋の表情が見られないのは、やはり日本の伝統に対する理解と共感が足らず、アメリカに目が奪われてしまっているからだろう。

 それを思うにつけても、政治学者ではないが、『論語』の言葉を引用して、「政とは正なり」は政治の要諦である、と喝破し、反英米を唱えた、戦前のオピニオンリーダー徳富蘇峰は、やはり、伝統を踏まえた、優れた歴史家にして、政治学者であったとつくづく思うのである。

戦後政治の根幹を正さずして、何が、現在の日本に必要とされる政治学か。
 もはや日米同盟の御大切を、十年一日の如く、繰り返していたところで、埒の明く政治状況ではなかろう。
 日本の独立を奪い、伝統を破壊することで、これを従属的地位に置き続けてきたのは、その同盟相手なのだ。

 戦後の政治家、および政治学者の議論は、根本的に、政治の論理に足元をすくわれて、得てして言葉を疎かにし勝ちであり、この本質的問題を疎かにする。そして、それが政治主張実行の不徹底を招き、政治に生かされぬ結果に繋がっている。
 これはそもそも政治および政治学における言葉の扱いというものが、現実問題の解決を目的とし、妥協、落としどころの議論であるから当然のことだ。
 つまり、その歴史認識、伝統意識は、目の前の政治的現実に引きずられる傾向があるのである。

 だから戦後政治、特に対米関係の専門家である田久保氏は、戦後の対米従属のパラダイムから完全に脱しきることが出来ない。
 日米同盟なしには、論壇における彼の存在価値は限りなく小さくなってしまうだろう。身も蓋もない言い方をすれば、商売上がったりである。
 本来なら、民主主義、国民主権という根本的欠陥を否定したところで、巨大な隣国との政治関係は継続するのであり、そこに彼の言論活動の社会的存在意義を見出すことは可能なはずだ。
 現に、利害が一致すれば、アメリカは、嫌っているはずの共産主義や独裁体制とでも平気で手を結ぶ。政治体制の一致は必ずしも同盟の必要条件ではないのだ。
 にもかかわらず、戦後のパラダイムの否定を頑なに拒否する態度は、奴隷根性にして、因循としか言いようがないのである。

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