毛利敏彦「明治六年政変」(中公新書)

 前回中公新書より出たばかりの小川原正道著「西南戦争」について触れましたが、今回はそこでも触れた毛利敏彦「明治六年政変」について触れたいと思います。
 この本も中公新書から出ていますが、出版されたのは1979年で、その内容は前年に有斐閣から出版された「明治六年政変の研究」が土台となっています。
 この両書は歴史学の原則に則って、史料批判を行い、もっぱら一次史料を中心に歴史を論じていて、征韓論政変について考察する上で非常に参考になります。
 しかし、やはり歴史学的手法の限界でしょうか、西郷隆盛の主張については単純な征韓論者の枠に収まりきらないというところまでしか論証しえていないように思えます。もちろん西郷隆盛の残した文書類に見える主張は、主に征韓論的な要素と平和的な礼節使節派遣論という要素の二要素から成っています。
 だから征韓論者か、平和使節派遣論かということが問題になるのです。
 毛利敏彦氏が有力な証拠として挙げているのが、明治六年十月十五日に西郷自身が閣議に提出した「朝鮮派遣使節決定始末」と題された文書です。確かに西郷の思想を知る上でも重要な文書ですが、この文書を精読しても、彼が非征韓論者であったということの証拠とはなりません。ここに示されていることは朝鮮問題着手の手順についてであり、その思考の筋道だからです。使節派遣の先にある武力行使の可能性については否定していません。
 私は、西郷は征韓論者か否かよりも、この思考の筋道こそが問われなければならないとおもいます。維新の元勲の主張を考察する上で、征韓論者か否かという設問の仕方自体がナンセンスなのではないでしょうか。
 ともかく毛利氏のこれらの著作は様々な点で示唆を与えてくれる好著であることは間違いないように思います。要はこの優れた問題提議を叩き台に、この政変の真相にどう肉薄するかではないでしょうか。

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